Vol.007 ぶれない錨(いかり)をもつ、田中代表の生い立ち

前回取り上げたツーリストシップの行動指針「HARF」の文脈の中で、もう一つ興味深いやり取りがあった。一体ツーリストシップとはどういうものか、改めて生まれたその大きな問いに答えているうちに、話はやがて、田中代表の生い立ちに辿り着いた。

お父さんの仕事の都合で、田中代表は転勤族だった。行く土地がコロコロと変わる。その行動範囲によって柔軟性は身に着いた気がすると自覚しているが、同時に「郷土愛」のような、地元を愛するというような気持ちがどうも持てないという悩みだった。しかし、だからこそ、色んな土地に出向く旅への興味関心もまた、沸き起こったのだろう。

行く先々で出逢う、住民の方々の想いや苦悩も、却って身に迫るものがあった。そんなことを話していたら、ふと田中代表の声色が変わる。

そうか。私は日本に来る外国人に、この場所を荒らしてほしくないと思っている。荒らしてほしくない代わりに、私も外国に旅行に行ったら、絶対に荒らさない。これが、ツーリストシップが生まれた原点かもしれない、と。

だから「あなたにとってのツーリストシップは何ですか」という問いが生まれる。その問いは、田中代表の、転勤族だった背景と、行く旅行先で見聞きする課題感とが掛け合わさっている。やがてそれが、今日のバイタリティとして育まれる。

人間が生み出す夢、目標、渇望といったものは、恐らく個々の生い立ちや背景が色濃く反映される。それが原動力となって、自身を奮い立たせる。

田中代表もまた、その幼少期の体験を活かし、世界に向けての大海原の旅を志すに至った。団体の規模や活動の大きさが価値ではない。その描く志の、想い抱く生き様こそ価値であると、彼女の言動を見るにつけ、思うのである。

生き様を育む生い立ちというものは、その先の捉え方によって、プラスにもマイナスにもなる。そのことを、田中代表が、自らの心と体で表現している。

日頃見せるその笑顔は、その志が生み出している。彼女の心には、不動の錨(いかり)が、海の底に深く突き刺さっている。どうりで、ぶれないわけである。

 (850文字)