Vol.017  場が人を動かす。「観光大使」にインスパイアされた広島にて。

2030年、人手は644万人不足する。

パーソル総合研究所が打ち出した未来予測。企業が求める人材と、仕事を求める人材との需給ギャップが、2030年、シャレにならないほどの深刻な「人不足を生む」と予言している。

他方で、それだけの人材難が揶揄されても尚、人材業界、いわゆる人材紹介会社やマッチングを生業とする業界の盛況ぶりが報道され、過去最高の増益増収とのニュースが飛び込んでくる。人材業界の盛況ぶりと、深刻といわれる人材不足の未来図にもまた、奇妙なギャップが生じている。

何とも不思議な話である。人材が足りないから企業が人材紹介にすがる気持ちはわかる。採用ができないからだ。だから人材業界は増益増収なのだろう。しかし、人が足りなければそう簡単に決まらないはずが、決まるところは決まっている。採用できない実態が、人材紹介会社の売り上げを伸ばしているという、ややチグハグな相関関係がある。一体この出来事が、私たちに何を示唆していて、何を意味しているのだろう。ずっと考えていたテーマだったが、そうかと気づいた瞬間があった。人不足だけが問題ではなかったのである。

田中代表の鼻息は、今日も荒々しい。新しい気づきや、大きな見通しの立つアイデアが思い浮かべば浮かべるほどに、その語気には気合が乗る。結果、鼻息が荒くなる。

旅先クイズの出展を、広島で開催。運営クイズの出題者を初めて「ひろしま観光大使」の方々と共同した。ちなみに「観光大使」とは広島をPRするボランティアの方々のことで、報酬はない。そういう方々との旅先クイズを展開したのである。そこは想像を絶することの連続だった。やることなすこと全てにおいて、観光大使の皆さんの気合の高さ、鼻息の荒さ(違う意味だが)に脱帽した。

ここまでやってくれるのか。満足に休憩も取らず、観光客がそっとテント内を覗けば、わずかの休息で口にしていたおにぎりでさえ脇に置く。このホスピタリティ、本物だと田中代表は感服する。

2030年、人手は644万人不足する。

本当にそうだろうか。どうも怪しいのだ。あれだけの観光大使の皆様の八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を見るにつけ、大暴れしたい人、お役に立ちたいと希(こいねが)う人たちは、実はもっともっとたくさんいるのではないか。人不足って、本当なんだろうかと。

人が足りていないのではない。その気合の、その情熱に耐えうる思いの丈の、受け皿がないのである。一人ひとりの個性やポテンシャルを、発揮できる場を生み出していない可能性がある。

ただ淡々と、「こういう作業してください」とか「これさえすればいくら払います」のような、実に功利的に見えて想いの乏しい場創りが横行しているから、人材はその場に振り向かない。どんな仕事にも、想いがあり、気合があり、広島の観光大使のような志がある。人不足の前に、場所不足。志を立てる場所の、不足ではないか。そう仮説を立てれば筋が通る。広島の観光大使を募集した際、たくさん旅先クイズ会に応募頂き、なかなかの倍率だったことを田中代表から聴いて、余計に思った。

企業戦士として奮闘してきたベテランサラリーマンの方は尚更だろう。この多様化した社会は、一時期を築いた勇者たちにとって、VUCAに表されるような住みにくい時代ではない。もう一度、あの青春を呼び起こす、実は「好機」の時代なのである。

そう思えばニッポン、まだまだ余力がある。労働生産力といった、数の論理ではない、違った余力だ。想いであり、想いからくる行動であり、俺はここにいるという自覚であり、その信念の、その志の発揮すべき余力を、手をこまねいて傍観させるわけにはいかないのだ。虎視眈々と、志が、その場が、狙っている。だから、旅先クイズ会が盛り上がる。その場に、その余力に、ひとの心は踊るわけである。

人不足を超えた、場所不足。志の開花する場所不足。その不足を補うに余りあるポテンシャルが、このツーリストシップにはあったという、広島でのエピソードである。

ちなみにこの「ひろしま観光大使」になろうと思えば、どこに住んでいても、いつからでも誰でもなれるそうだ。この門戸の広さ、そして未来志向の着想が、あの生き生きとした旅先クイズ会を輩出したという意味でも、納得がいった。開かれた社会は、ツーリストシップの目指す大事な一里塚だ。