Vol.34 ロマンとパッションの狭間で、ツーリストシップが進化する

「ロマンを伝えつつ、パッションを消したい。」

文字通りに読み解けば、一体何のこと?と混乱さえしそうだ。ロマンを伝えるはまだいい、パッションを消したいとはどういうわけだ。

田中代表曰く、正確には「脱パッション」らしい。パッションは伝播の起爆剤でもあるが、逆に人を遠ざける圧にもなる。だから、熱さはそこそこにして、ツーリストシップという概念をロマンでもって優しく伝わっていくことを狙えば、本当のムーブメントが起こるのかもしれない。田中代表のその志はまるで、“青い炎”のようだった。青い炎…やや矛盾めいた表現だが、そういうことだから仕方がない。例えるなら、静かな闘志とか、乱れ飛ぶ凪、とか。まるでギンギラギンにさりげなくじゃないか。

しかしその光景は、ツーリストシップがもう一つ高みのフェーズに行き着いたことを意味していた。先日、衆議院の特別委員会でツーリストシップが取り上げられた。「観光客と住民が協力しあう意味」として、神奈川新聞にも掲載された。国会を席巻したツーリストシップには、パッションよりも大事な「新しい未来づくり」を、ある意味で訥々(とつとつ)と示し、実走させていくミッションを含んでいる。いみじくも、冒頭の一文が早々に、形となって表れた。

他方で課題はある。ツーリストシップの浸透度はまだまだ途上だ。そしていざ旅行者となった際に、ツーリストシップを胸に秘めて行動できるかどうか。その道程は決して容易ではない。

先日、仕事でベトナムのハノイとホーチミンを訪れた。久々の海外にやや不安はぬぐえない。しかしである。今の私は、以前とは違う。そう、私にはツーリストシップがあるのだ。

“ここにおわすお方をどなたと心得る。我こそはツーリストシップのパートナーであるぞ頭が高い。ひかえおろう。”

いざ旅行者としての振る舞いを実践…と飛行機の中までは威勢は良かった。ハノイ空港に到着したその瞬間から、その心意気は脆くも風に飛んで行った。理解不能なベトナム語が眼前に迫り続ける中、ナニモワカラナイ土地で右往左往する私に、ツーリストシップのことなどまるで頭にない。ただ目の前のことに必死だった。税関に睨まれ、クラクションに慄(おのの)き、ホテルの扉を飛び切りの笑顔で開けてくれる従業員を前に「え?その笑顔ってチップ求めてるの」と懐疑心だけが膨らんでいくワタシの儚い心といったら。嗚呼、情けない。これが「この印籠が目に入らぬか」の惨状である。

伝わるということの意味は、恐らくそれを「自然に」「歯を磨くように」当たり前に出来上がっている状態を指す。その高い高い理念に向けて、ここまで大きくなったツーリストシップだけれど、ここから登るべき山は険しい。フェーズが変わったツーリストシップの、実情であり課題であり、それこそがロマンでもあろう。

セッションの後半、更に面白いことができるのではないかと盛り上がった。ツーリストシップに集うメンバーもまた、この機会で何かムーブメントを起こせるのではないかと。その話はまた追々この場でお示しするとして、こういう融合による新しい扉もまた、今後田中代表が出会う様々な冒険の中でどんどん開かれていくのだろう。

「ロマンを伝えつつ、パッションを消したい。」

この言葉に秘められた意味の深さと「高さ」は、きっと想像以上だ。

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