vol.45 それでも会いたい人がいる。

(ライター:弓指利武、音声:井本ゆうこ)

ヴァネッサ・カールトンが2002年にリリースした楽曲、
『A Thousand Miles』を聴きながら帰路につく。

最終電車に揺られ、先ほどまで友人と語り合っていた激論を思い返していた。
私たちはなぜあんなにも、熱く語り合おうとするのだろう。

軽快なピアノのイントロが心地いい『A Thousand Miles』とは、
遠くにいる大切な人に会うためなら、Thousand Miles先でも厭わないという意味だ。

1000マイルは約1600キロ。例えば青森県から山口県に至る、本州をすっぽり覆う距離だ。

大切な人のためであれば1000マイルくらいなんてことない。
人は結局のところ、人から感動をもらい、人から幸福を感じ、人によって支えられている。
しかし時に、人によって悩まされ、人から病(やまい)をもらい、人から人生の苦しみを味わう。

いかん。激論の余波がまだ残っている。頭を冷やすとする。

今日もよろしくお願いしますと、早朝からあの高らかで明るい声が耳に入る。
ツーリストシップ・マネジャー、春田菜々美氏の第一声は、その透明感が印象的だ。
『A Thousand Miles』のイントロさえ凌ぐだろう。

彼女の、ツーリストシップに入ってからの活動量が物凄いことになっている。

「何でもさせていただけることに感謝しかない」と息巻く春田氏の上ずった声が、その充実度を物語っていた。

人材難にあえぐ観光業界を盛り上げようと、就活イベントまで企画した。
関西と関東で1回ずつ開催する。見れば名だたる企業が顔をそろえる。

「こういう恩返しも、あっていいのではと思ったんです」

この勢いである。イイと思ったらやる。この軽快なリズム感がツーリストシップである。

2030年のビジョンも、社内で何度も議論した。そのころの私は一体、何をしているだろうと。
もっと海外に目を向けて、新しい価値を生み出していきたい。就活イベントも定期開催をにらみ、「人との出会い」という旅を提供していきたい。旅の概念が次々と展開されていく躍動感がそこにはあった。

旅は何も、遺跡や観光名所を巡る事だけではない。
そして何も、出向くことだけが旅ではない。
出会いを創り出すことも大きな旅だ。

たとえ遠くにあったとしても、
架かる距離なんて吹き飛ぶくらいの、
あなたに会いたいを実現していくこと。

就活という出会いを創る春田氏の想いには、
ツーリストシップの概念を更に深化させた、
壮大なミッションが込められている。

『A Thousand Miles』の歌詞には、こうある。

Cause you know I’d walk a thousand miles
If I could just see you

(1000マイルでも会いに行くさ)
(無論、あなたに会えるならね)

春田菜々美に会いに、
これからもたくさんの人がやってくるだろう。

イベントに集う企業、そこに来る学生そして、
ツーリストシップを想う旅人たち。

…人は面倒でも触れ合い、議論し、熱くなる。
きっとそれは、それでも会いたい人がそこにいるからなのだろうと、想う。

春田菜々美と会うには、1000マイルでは“短すぎる”のだ。

やがて駅に到着し、冷たい夜空を見上げてみる。
まだ火照った頭を揺らしながら、そして春田菜々美の未来をふと想像しながら、
『A Thousand Miles』を、聴いている。