Vol.010  理想の対義語は現実にあらず。成功の対義語は失敗にあらず

国語の授業で「対義語」という言葉を聞いたことがある。

意味上の対(つい)をなす語、反対の意味を指す言葉。

例えば「大きい」の対義語は「小さい」、「狭い」の対義語は「広い」、「良い」「悪い」、「深い」「浅い」あげればきりがない。

では、「理想」という言葉の対義語は、何でしょうか。

そうですね、「現実」となります。

ツーリストシップに限らず、あらゆる団体が志を立て、その手に握る夢というものには、確かな「理想」が存在し、その理想こそが原動力となって様々な行動を発起させる。

云わば「理念」とも言える、何のために、誰のために、なぜやるのかという動機の根っ子である。

崇高な理想は得てして、現実の問題を蔑ろにしがちである。立派なことは口にしても、実際の行動に移せない、寂しい志は世の中、枚挙に暇(いとま)がない。

ともすれば、旅行者、観光従事者、住民の三方善しを目指すそのツーリストシップの志もまた、数多くある《行動なき理想の1ページ》に埋没しかねない。描いて終わるような、儚い理想に留まっては、この誇り高き理想は水泡に帰す。

しかし田中代表は、行動を求め、「現実」を見ていた。この先の人不足、そして効率と効果との両輪を視野に入れた突拍子もないような、けれど実に現実を見据えた構想を設計していた。

そう、ブースの無人化である。

人と人とが膝と膝を突き合わせて初めて成し遂げられることこそが「ツーリストシップ」であると思いきや、田中代表の頭の中では、エクセルで弾き出された精巧な損益分岐、収支計算の表でびっしり埋め尽くされていた。コストを抑え、幅広い展開を視野に入れて考えれば、何でも人がすることの問題点は明らかだ。人がやらないといけないという思考の枠を外した。理想に走ると見せかけて、この周到な現実主義には頭が下がる。

この日、田中代表の話を聞いていて思ったことがある。理想を成し遂げる上で、現実が障壁になるという発想は田中代表にはないと思った。その迫りくる現実こそが、理想を実(じつ)に結ぶ突破口であるという思考だった。つまり、理想と現実は、田中代表にとっては対義語ではない。同義語なのである。

ブースの無人化、その飽くなき挑戦はまさに、真のツーリストシップの成功のための一里塚である。やってみなければ分からない、その心意気は既に、ツーリストシップを地で生きる者の佇まいだ。頭に描くイメージ図と計算機の同居、なるほど、さもありなんである。

ちなみに「成功」の対義語は何でしょうか。そう、失敗と答えるのは辞書としては正しいが、ツーリストシップとしては不正解。

正解は、…そうですね。成功の反対は、挑戦しないことですね。

アメリカの教育者、ノア・ウェブスターは言いました。

「成功とは、探し求めた目標の、満足のいく達成である」

田中代表が観る世界は、理想じゃない。挑戦という道の向こう側に立つ、「現実」そのものである。

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